長期修繕計画の修繕周期について ガイドラインとの関連はあるのか

今回でブログ50本目となります。

問題提起

 マンションの長期修繕計画において、築12年目に第1回目の大規模修繕をやりましょう(あるいは、実施することになります)と皆さんもよく聞かれていると思います。
 そこで、この12年目大規模修繕工事は決められているのか、また誰が決めたのか、その根拠(理由)はどこにあるのかについて、少し立ち止まって考えてみることにしました。

12年の根拠について調べてみると

 平成23年4月に出された国交省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を読んでみますと、以下のような記述があります。

・・・マンションの共用部分の修繕工事は、12年、15年、30年といった長い周期で実施されるものが多く、修繕工事の実施時には、多額の費用を要します。・・・

 この記述で12年という数字が出ていますが、断言していません。むしろ過去の経験値を踏まえて説明しているように思えます。ただ経験値は多ければ多いほど正しい数値になることは否定できません。
 これ以外に12年であると説明している文献は私が調べた範囲では見当たりませんでした。

では、根拠となり得るものはあるのか
 建物の構造躯体ではなく、建築材料(その工法を含めて)や外壁などの仕上げ塗材そして諸設備の耐用年数を基準として集約してくると12年という年数が出てきたと思われます。

12年目に大規模修繕工事をしなければならないのか

 管理組合での大規模修繕のことがニュースやドキュメントで報道されることがあります。
 レポーターのコメントでは「当管理組合は12年目の修繕工事がはじまります。そこで、修繕委員の〇〇さん・・・」という具合に12年目には修繕工事が実施することが決まっていることを念頭においたコメントになっています。
 12年目と言うのは、修繕積立金の設定と密接に関係します。
 積立金の額は、将来の工事の内容、その時期の概算費用を盛り込んだ長期修繕計画に基づいて決められています(中には長期修繕計画を作成していないで積立金を設定しているマンションもありますが、こうしたマンションは積立金が低く設定されているのが常です)。
 長期修繕計画については、平成20年6月に国交省がガイドラインを公表しています。
 そして、多くのマンションでは、12年先や30年先の工事を前提として積立金を決めています。積立金の設定のために12年目を目途として工事の概算費用を積算することは合理的な考え方だと思います。
 そのことと、12年目の大規模修繕工事を実施することは、別次元の問題だと思うのです。
私の考え方
 ちょっと粗い話になりますが、全てのマンションが同じ規模で同じ仕様書によって同じ品質を保ち、同じ環境のところで建築されたとすれば、大規模修繕工事も同じ時期に、同じ内容で実施すれば良いでしょう。
 しかしながら、同じマンションはありません。製造ラインに乗って作られるものではないので、マンションには個性があるのです。
 大規模修繕を必要とする時期が、そのマンションの修繕周期でしょう。
 ですから、12年にこだわることは無いと思います。

ガイドラインについて考えてみます

 よく、ガイドラインという言葉を耳にします。
 ガイドラインとは、一般的には、指標とか指針という意味だとされます。しかし、今日的にはその政策などを実施するための好ましいルールなどという規範的(法律的)な意味が含まれるようになっているのではないでしょうか。
ちょっと横にそれますが、私は最近弁護士会の研修で、診療ガイドラインをテーマとする議義を聞いてきました。
 診療ガイドラインとは「特定の臨床状況において、適切な判断を行うため、臨床家と患者を支援する目的で系統的に作成された文書」だと説明を受けました。
 そして、症病ごとにガイドラインが備わってきているとのことでした。
 さらに、このガイドラインは法的拘束力があるのか否か、つまり医療従事者の患者に対する注意義務違反を判断する規範になるのかという議論もありますが、ガイドラインが作成された基礎となるデータが評価されるもので、推奨されるものであれば、拘束力を認めても良いが、ガイドラインという名称だけで拘束力があるとは言えないという説明だと理解しました。
 この講義を聞きながら、国交省が出しているガイドラインのことを考えていたのです(何を聞いていてもマンションではどうかと関連づけてしまう悪い癖があるのですねー)。
 国交省の出しているもので、拘束力のあるガイドラインは何だろうか。で思いついたのが、今回のテーマでした。
 

私の考え

 私は、長期修繕計画、そして積立金に関するガイドラインには拘束力は無いとの判断をします。
 その理由は、マンションは人間以上に多様性があると考えたからです。薬を100人の患者に投与しても、100人が同じ効果を得られません。しかし、多数の人(70~90人くらい)には、効果があります。一方、マンションは、同じ仕様で修繕工事をするにもそもそも同じ構造設備を持っているマンションは無いのではないでしょうか。一つひとつのマンションで処方箋を作らなければならないでしょう。
 つまり、日常的(1~2年に1回は点検すること)に躯体や建材部分、設備部分が健康かどうかをチェックして、悪いところが出たら、そのマンションの処方箋を作っていく事ではないでしょうか。そうした処方箋の作成の際に、比較対照するものとして、ガイドラインがあるという考え方はどうでしょうか。
建築の専門家ではありませんので、稚拙なことを言っていると思いますが、私が言いたいことはガイドラインとか標準管理規約とかが公表されていますが、それをストレートに受け入れようとするのではなくそれぞれのマンションの実態に合わせて考えてほしいということです。その際に大いに参考になるのがガイドラインであったり標準管理規約であったりするのです。
以上