平成27年9月18日最高裁判所第二小法廷判決について 不当利得返還請求事件

事案について

判例集などによって私なりに想像しているところもありますが、こんなことだと思います。
事件になったマンションは複合用途のマンションで店舗部分については看板を外壁に取りつけることを容認していて実際にも看板が取り付けられているのでしょう。そんなマンションに携帯基地局を設置してもらおうと携帯会社が契約を申し込んできました。
一般的には管理組合に申し込んでくるのでしょうが、この事案では一区分所有者に申し込んできた。なぜか?基地局の設置を看板設置と同様に考えたのかもしれません。この話を受けた区分所有者も機器類の設置場所としては自分の専有部分を貸して、アンテナ設置部分は外壁か屋上部分(共用部分)を貸すこととしたのでしょう。
これが共用部分を自分の利益のために第三者に貸して賃料をもらっていたので不当利得だとして、他の区分所有綾から不当利得返還請求を受けたのが本件事案となります。

考え方

前提問題として、貸した区分所有者(Aと言います)が不当利得したことは間違いありません。次は損をした人は誰かということです。共用部分を利用したということですから共用部分の共有持ち分権者全員です。請求者は自分の持ち分について請求した(金銭的請求ですから可分債権と言います)ことになります。ここまでは何の問題もありません。マンション問題にかかわって30年になるような人であれば、すぐに思い起こすのは、このような事案で管理組合が不当利得の請求をAにすれば、裁判所は可分債権として区分所有者に帰属するから管理組合には請求権が無いので個々の区分所有者が請求しなさいと言って請求を認めてくれなかったことです。
区分所有法の平成14年改正で管理者が損害賠償請求や不当利得返還請求を区分所有者の代理人として行使できるとした規定(26条)が置かれる前のことになります。
Aに対して請求した区分所有者は以前の考え方に立ったのかも知れません。
管理者の権限として区分所有者を代理して請求できる規定が出来たとしても、個々の区分所有者の権利は無くなりません。ですからこの併存している権利行使の方法について優劣関係をどうするのかという問題はあったと思います。その優劣関係についてのメルクマールを最高裁が示したと思います。

最高裁の判断

本件では、管理規約において管理者が共用部分の管理を行い共用部分を特定の区分所有者に無償で使用させることを認めているところから、区分所有者の団体のみが本件の不当利得請求権を行使出来る旨を含むものと解すべきであるから、本件の一区分所有者はAに対して不当利得返還請求権を行使できないと判断しました。
 つまり個々の区分所有者の権利は区分所有法、管理規約によって制約を受けることとなる場合があると判断したのです。

では誰が請求できるのでしょうか

私は区分所有法26条によって管理者が集会の決議に基づいて不当利得返還請求をすれば良いと考えます。最高裁の判断には区分所有者の団体という表現が使われていますが、管理者は区分所有者の団体の代表者ですから管理者を排除することを言っていないと思います。

この事件についての感想

今後こうした事案は増えてくると思います。その時はシンプルに考えてはどうでしょうか。この事案では携帯基地局に貸して賃料を自分のものにしたAに利得があることはおかしいことです。賃料は管理組合に入るべきものでした。そうすると、管理組合にお金を引き渡せというときに実務的には管理者に引き渡しを命じてもらうのが最も分かりやすい形になります。管理者が請求することしか考えられません。
26条に関する平成14年の区分所有法改正は有益な改正であったと思いますし、私も訴訟で使っています。
以上