区分所有権は変質したのか?

1、区分所有権とは何でしょうか
 一物一権主義の大原則の例外を法が定めたものです。その必要性は何だったのでしょうか。それは、集合住宅の誕生という日本における住居形態の変容によって、一棟の建物の中に区分された複数の建物に所有権を付与することによって、取引や担保設定を可能にする目的がありました。

 担保設定が可能になったことで住宅購入資金の調達が可能となり、ここに住宅所有者、建築業界、金融業界のトライアングルが出来あがったのです。

2、区分所有権と所有権の異同について
所有権は言うまでもなく絶対的権利です。それは、処分すること、行使することが原則的に自由であるということです。
区分所有権はどうかと言えば、そもそも区分所有権は、その対象となる区分された建物部分を取壊すことはできない権利として成立しているのです。これは、一棟の建物の一部であることから導きだされる当然の結果です。一棟の建物に対する所有権とは大きな違いです。

3、区分所有法の制定と改正について
 旧区分所有法(昭和37年)は、建替えの定めを置いていませんでした。つまり、区分所有者は自己の意思に反してその建物の取壊しや大改造をされることのない権利を有していたのです。
 ただし、管理や生活ルールに関する規定は民法の共有の特別法として詳細にかつ具体的にルール作りがなされています。

昭和58年改正において、建替え規定が置かれました。それも、5分の4という特別多数決議を必要とし、さらに客観的要件も必要とされました。社会的背景として、マンションの老朽化が進行し、建替えの必要性が出てきたからであります。5分の4という数字がどうしてでてきたのかは興味深い話があります。それは4分の3よりは厳しくしたいので10分の9というのもありだけれどもその中間で5分の4と言う要件にしたということが国会の委員会審議の記録に載っているのです。
そして、平成14年の改正によって、建替えについて5分の4のみで成立することになったのです。客観的要件が無くなったのです。この改正法によると区分所有者は多数意見によって自己の専有部分を取壊されることになるのです。
所有権としての不可侵性は無くなったと言ってもよいでしょう。

4、不可侵性が無くなったことの合理的説明は可能なのでしょうか。
 公共の福祉という概念を持ち出すことはどうでしょうか。権利と権利の調整の場合において、優越的権利を多数派に認めることが合理性を持つのか。憲法で認められる財産権の保障にまで議論が及ぶでしょう。
 昭和58年改正では、客観的要件によって公共の福祉による所有権の制約を説明する根拠はあったと思います。つまり、老朽化等によって、建物の危険性が高まり、居住者や近隣住民の生命、財産を奪う可能性があることを要件としたのだから、多数決原則が機能しても許容される面はありました。
 しかし、平成14年の改正にはそれが見いだせないのです。ここにおいて、もはや区分所有権は、所有権の性格を失ったと考えるのです。
区分所有権は変質したのである。

5、区分所有権は何になったのか。
 区分所有権とは、一棟の建物のなかに独立した空間を排他的、専属的に利用し、処分し、担保設定することが可能であるが、他の区分所有者の意思によって居住できなくなる建物に対する権利であると言っておきましょう。
判例として、平成19年10月30日大阪地方裁判所は、社会経済政策を合理的目的とした制約は公共の福祉に合致するとしています。
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