水漏れ事故について
裁判例として、判例タイムズ853号に掲載されている事案を紹介します。
共用部分でない配管接続部分のパッキンの劣化に起因する水漏れ事故が発生し階下の住民が管理会社を訴えた事件です。裁判所の判断は管理業務委託契約を締結している管理会社の業務は専有部分には及ばないとして請求を認めませんでした。また、事務管理者としての善管注意義務違反もないとして請求を認めませんでした。
少しコメントしますが、この事案では委託契約上の義務の範囲か否かという点と、漏水が発生してから原因究明などの対応をしたことが事務管理(民法697条)による善管注意義務に反するか否かという2点が問題とされました。
裁判所はいずれも否定しています。
さて、テーマを簡単にしますと、管理会社の義務範囲についてどう考えるのかということになります。
裁判所は、専有部分で起こったことだから義務範囲外であるとしました。
では、共用部分で漏水の原因があればその責任を管理会社が負うのでしょうか。
共用部分が原因の場合はどうなる
管理委託契約の内容は大きく4つあります。事務管理業務、管理員業務、清掃業務そして建物・設備管理業務です。水漏れに関係するところは、建物・設備管理です。その管理項目の中に給水設備があります。それによりますと、給水管については、錆・損傷などの有無を外観目視点検とあります。専門業者が実施する給水管内部のファイバースコープ検査はありません。
この外観目視検査と言っても給水管の通っている箇所が外観目視できない場合は無理でしょう。結局は露出部の目視調査になりますね。そうしますと、露出部の目視調査をしていれば、契約上で決められた業務を遂行したことになるので、水漏れがあったからと言って直ちに管理会社の責任問題とはならないと考えます。
やはり、共用部分を管理維持していくのは、管理組合に最終的な責任があります。
注意すべきは、共用部分で起こった事故については、管理会社の責任の有無が一応問題になるということだと思います。その上で、管理委託契約の内容を確認し、実際に責任が発生するのか否かを検討することになります。
理事長の横領事件や管理費の長期滞納者に対する回収不能の責任
理事長が管理費を横領することがありますが、そんな時も管理会社の善管注意義務違反が問われたり、管理費の滞納者に対して時効にかかってしまうことは、管理会社の善管注意義務違反だと主張されることもあります。
理事長の横領は、色んな手口を駆使しますので、管理会社の責任は否定されるでしょう。
ただし、理事長が勝手に紛失届を出した事実を把握しているにも拘らず、その後の残高確認や通帳管理を怠っていたりすると責任を肯定されると考えます。
また、滞納問題では、管理会社が組合に対して滞納状況の報告をして、マニュアルに従って督促をしておれば、責任は無いと考えます。滞納者に対して請求(訴訟を含めて)することは、本来は管理組合の仕事だからです。5年の時効によって請求できなくなったとしても管理会社の善管注意義務違反は認められないことが多いでしょう。
以上