理事長の権限と総会承認   マンションと契約する者の注意点

管理組合との契約

管理組合と契約する会社や専門家は多いと思います。私たち弁護士もそのひとりです。設計事務所がコンサルで仕事をしたのにその費用請求に関して争いとなり裁判になりましたが、管理組合は支払わなくとも良いと言う判決が出ました。
東京高等裁判所平成27年11月26日判決(マンション管理新聞平成28年1月25日発行の記事より)がそれです。
事案はこうです。管理組合の理事長が設計監理コンサル契約を設計事務所と締結したのですが、その後の臨時総会で白紙に戻したと言うものです。この契約については総会の承認を得ていたものでは無かったのです。その結果契約は管理組合が当事者として発注したものではないので費用の支払い義務は無いと判断されたのです。
設計事務所とすればそんなこと知りませんでしたと言い訳は出来なかったことになったのです。裁判所はマンション相手の業務をこなしている事務所であれば管理組合が外部と契約するときには総会の承認が必要なことを知っている筈と認定したのです。そう言われればそうですね。
私は管理組合の依頼を受けて管理費の滞納者に対して督促の内容証明郵便を送ることがあります。もちろんこれも委任契約になります。しかし総会の承認があったか無かったかは気にすることもありません。催告をすることは規約とか場合によると督促細則等のルールがある組合もあって特別な承認までは必要ないと考えられます。しかし、管理組合が特定の会社を相手にするとか区分所有者に対する競売請求をするとかの特別なケースでは弁護士への委任について総会承認を貰わなければ事件に着手しないことにしています。
ただ、総会を開いて承認を取ると言っても定期総会は年に一度ですし、臨時総会を開くとすればその準備や費用がかかります。それで事後承認的な考えでやってしまうことも実際にはありますよね。管理組合の意向とその時の理事長(ないし理事会)の考えが一致しておれば事後的承認で問題無く終えるものです。ところがそうは行かない組合もあるようです

理事長の権限と総会承認

ここでは理事長の権限について触れておきます。管理規約に理事長権限についての規定はあります。その大半は総会の承認と言う多数意見を根拠に置いています。要するに総会で決まったことや規約で具体的に決められていることは理事長の権限内で出来るのですが、建物診断のために設計事務所とコンサル契約を結ぶことは勝手にできません。
しかし、最近こうした理事長さんが多くなってきた感がします。勘違いですね。会社のオーナー社長ではないのですから弁えてもらわないといけません。ただ一方では責任問題も発生したりしますので気をつけなければなりません。この辺のバランスですね。

裁判所の判断

今回の事件は被告を管理組合としていましたので、総会承認していない以上責任を認めることは無理です。
一方今回の事件で被告になっていなかった理事長の責任となりますと、民法に無権代理人の責任と言う規定がありまして、履行責任を負うことになりかねません。理事長はそんなことまで想定していないと思いますが、どうなっていくのでしょうか。
裁判所は法律によって判断しますので、今回の事件では結論として異議を唱えることはできません。
この事件の教訓として、外部の者からすると組合内の合意形成ができているかどうかを見極めることになりますが、総会承認がないとなると慎重にならざるを得ないでしょうね。うーん私もどうしたらよいのか答えがありません。
これは今後の宿題と言うことにします。
                                                         以上